カテゴリー別アーカイブ: かため

『自省録』マルクス・アウレリウス

『自省録』/マルクス・アウレリウス (講談社学術文庫)

マルクス・アウレリウス・アントニヌス。ローマ帝国の皇帝にしてストア派哲学者。しかも、皇帝としては歴代ローマ皇帝の中でも著しく評価の高い「五賢帝」の1人に数えられ、哲学者としても現代まで読み継がれている数少ないストア派哲学書の著者である。プラトンが『国家』で夢として描いた「哲学者が統治する理想国家」をある意味実現した人。こう聞くと「圧倒的じゃないか!」と思える。しかし。

マルクス・アウレリウスの主著『自省録』、一読して幻滅。これはただの自己啓発書だ。座右の銘とかが大好きな、「哲学」を世俗的な人生論としてとらえてるような人が好きそうな本だ。

いや1900年前に自己啓発書の元ネタになるような本を書いたのはスゴいと思う。現代の書店の自己啓発コーナーやビジネス書の成功哲学コーナーにおいてある本なんてここに書かれてることを薄めて広げてるだけだし、たまたま成功しただけの聞いたこともない会社の社長の格言なんかよりも、ローマ皇帝の生の言葉の方がはるかに重い。だけれども、これが「哲学」に対する間違った印象を広めた諸悪の根源なんじゃないか、といっても良いくらい、この著作の中では何も哲学していない。

ここでは、ストア派哲学を学んだ者がそれを自分に適用しようとして悪連苦闘している様子が描かれている。これを読んでいるとマルクスが世界をどのように見ていたのかはよくわかる。けれども、なぜ「それが真理である」と考えているのかについてはは全く触れられておらず、哲学に必要な先達に対する批判的検討がなされていない(単なる批判についてはソフィストに対してなされているが)。そういう意味ではこれは思索を深める哲学書ではなく、ストア教信者によるストア派思想実践本、あるいは懺悔本といったものに近い。

しかも、読めば読むほどに、そこに言及されている思想の内容とは裏腹に、自分が苦しんでいること、怒っていること、欲望に惹かれていることの独白になっている。基本的には「怒ることに意味などない。すべては自然だ。善悪など存在しない」と繰り返し(100回ほど?)書かれているだけの本であるが、これを読めば内心マルクスがどれだけ怒っていたのかがよくわかる。元々出版予定の書ではなく自分用に書いたものであるという触れ込みだが、世に出してしまったことで、言ってることとやってることが全く逆、という矛盾が生まれてしまっている。「悩む必要などない」と言いながら悩み続けていることを告白しつづける、ストア派としては敗北の書である。それはとても痛々しいが、とても共感できる。すべての孤独な政治家や経営者にぜひ通読をおすすめしたいほどだ。

けれども、ストア派哲学の文献を読みたい、と思って手に取ると幻滅する。ストア派の思想を知りたいのであれば、マルクスが書いていることの受け売りの元ネタを読まなければならない。

そういえば、エピクロスについて何度か言及され、引用もされているがあまり批判的なニュアンスはない。教科書ではストア派とエピクロス派は対極にある思想であるかのように書かれているが、この時代にはそれほどでもなかったのだろうか。逆に、ソフィスト(これも世俗的解釈の上でだと思うが)に対してはとても批判的である。

今回読んだのは講談社学術文庫版(鈴木照雄訳)だが、これ以外にも岩波新書版(神谷美恵子訳)もある。どちらを読むかは書店で比較してみたが、岩波文庫版の方がふんわりしているように思えたので、講談社学術文庫版にした。

最後に一文だけ引用する。

「私の演じたのは五幕でなく三幕です」。その通りだ。しかし、人生においては三幕が劇全体であるのだ。

だけど、五賢帝はマルクス・アウレリウスで終幕した。

現在、数年前に読了したプラトン『国家』をまとめようと思いつつ挫折していて、それとは別にアリストテレス『ニコマコス倫理学』を読んでいるところ。さらに、本書のネタ元だと思われる、エピクテトス『語録』も読んでみたい。

カテゴリ: 読んだ本/漫画 日付:
タグ: ,

最近読んだ本 – 『闘うための哲学書』-小川仁志×萱野稔人


闘うための哲学書 (講談社現代新書)

本屋で平積みになってるのをたまたま手にとって期待せずに読んだ。

これ、むちゃくちゃ面白い。

著者の2人が22冊の哲学書を対談形式で解説するという一見普通の「哲学入門書」の形式なんだけど、面白いのは紹介されている哲学の中身ではなくて、この2人の解釈が毎回違っていてしょっちゅうぶつかって議論になるという点。

おおまかな傾向としては企画者の小川氏が解説するとゲストの萱野氏が違う視点で切り込む、という流れになっている。最初こそ用意された台本のように「こういう考え方もありますよ」のようなソフトな議論で進むんだけど、途中(と言ってもかなり早い時期)からはガチバトルな展開になり、この2人は相当仲が悪いんじゃないかと読んでいて心配になるくらいぶつかり合う。それが面白い。「寝る前に1日1哲学者ずつ1ヶ月くらいかけて読もうか」くらいに思っていたけど、結局3日で読み終わってしまった。

固い話ほど対談形式のほうが楽しめるというのはあるんだけど、それにしてもこんなにエキサイティングな対談は『EV.Cafe 超進化論 (講談社文庫)』以来かもしれない。

EV.Cafe 超進化論 (講談社文庫)

ところで、この小川仁志氏って全然知らないけどどんな人なんだろう?と読み終わってググってみたら、昨年読んだ本に自分で感想書いてることに気づいた(笑) そうか。この人か。

カテゴリ: 読んだ本/漫画 日付:

最近読んだ本2015春

突然ですが、ここ最近読んだ本の紹介です。

適当にピックアップしています。特におすすめというわけでもないので参考にするなりしないなり、ご自由にどうぞ。

21世紀の資本


▼続きを読む…

カテゴリ: 読んだ本/漫画 日付:

最近読んだ本-2014春

電車通勤になって一年半、読書量は増えたのですが、一冊一冊を熟読してる感じではなくなったような気がします。というわけで、最近読んだ本の中からいくつかをピックアップして一行コメント的なものを残しておこうと思います。順不同です。

そして読んで時間が経ってるのもあるので感想は適当だし、選択基準も特におすすめしたいものというわけでもないです。

▼続きを読む…

カテゴリ: 読んだ本/漫画 日付:

2014年になりました

あけましておめでとうございます。

結局いつのまにか2013年は終わり、いつものように新年がやってきたわけです。

新年のあいさつに何か気の利いたこと(今年の抱負みたいなの)でも書こうかとあれこれ悩んでいるうちに、ずいぶん経ってしまいました。

おみくじ
IMGP1545s
2014/01/02 熊本市
PENTAX K-3 | DA35mm/F2.8 Macro Limited

さて、2014年はどういう年になるのでしょうか。
▼続きを読む…

カテゴリ: 近況 日付:

「やりたいことをやる」のは責任なのか?

ネット上で、

人が取るべき責任ある行動はただひとつ。自分が心からしたいことをすることである。

というマイク・マクマナスさんという人の言葉が流れてきた。俺はこの人を知らないし、その本意はよくわからないけれども、この言葉を好きな人やこの言葉を使う人の心理は良くわかる。こういう「自己啓発的な言葉」は今となっては「自分を鍛えるためのツール」ではなく「反省せずに自己正当化するためのツール」に成り下がっている。

だから俺はこれに反論する。

人が「やります」と断言してたことを、あとで「やっぱりやりたくなくなったのでやめます」と中止した時、それは責任ある行動だと言えるだろうか?

▼続きを読む…

カテゴリ: 思索, 社会/政治/文化/哲学 日付:

2013参院選雑感、そして安全保障についてちょっとだけ語る

参院選が終わった。

多分今頃開票速報をやっているのだと思うけど見ていない。

投票日の夜はいつも憂鬱になる。選挙で勝った経験など一度もない。投票した人が当選したことは何度もあるけれど。

選挙で誰に投票するかを選ぶ方法は2種類。「自分の考えに一番近い人」に投票するか、「当落線上にいる人のうち一番マシだと思える人」に投票するか。前者が本来の理想的な選択方法だと思うが、現在の選挙で党員かよほどの信者じゃない限りそんなことはなく、ほぼ後者の方法で選ばれているのではないだろうか。

そういう俺も後者で選んだ。しかし「当落線上にいる人のうち一番マシだと思える人」が当選したとしてもそれは自分にとっての勝利ではない。では「自分の考えに一番近い人」に投票してその人が当選したら勝利なのか。それはそうなのかもしれない。だけれども、そもそもどの候補者も自分の考えからほど遠い。自分の考えを代弁する候補者なんていない。だから必ず選挙では敗北するしかない。

おそらくこれから酷い時代になるだろう。原発も止まらないし、憲法も改正されるだろう。国防軍が設置され、軍法会議が全ての法律に例外事項を上書きするだろう。その戦争に賛成か反対かにかかわらず、戦争に踏み切った途端に個人の自由が剥奪される。一度そうなった未来を想像してみよう。ほんとうに酷い時代だ。

その未来に加担した責任は負わなければならない。どうせ負うなら明るい未来が良い。戦争はいらない。国防軍を設置することで平和が維持されるなんていうのは間違っている。戦争はキッカケで起きる。国防軍の設置はキッカケだ。国防軍の有無や平和憲法の有無が問題じゃない。ない国防軍を作ることが緊張を生み、戦争の可能性を広げる。戦争は起きてしまったら勝っても負けても大変なことになる。戦争を予防することが重要だ。戦争を予防するにはキッカケを作らないことだ。だからない国防軍は作らないほうがいい。

そもそも「日本がアメリカに守ってもらっている」という安保概念が間違っている。地政学的には逆だ。日本がアメリカを守ってる。アメリカの口車に乗ってはいけない。国防軍を作ってもアメリカの防波堤になるだけだ。日本の税金と日本の人権をすり減らしてアメリカを守る必要なんてない。日本に危機があるとしたら、それは北朝鮮が攻めてくる時じゃない。アメリカが他国に余計なちょっかいを出す時だ。今はまだその矛先が中東だからあまり影響がないが、矛先が東アジアになったら厄介だ。その時はアメリカの味方をしているという理由で日本が攻撃対象になる可能性が高くなる。その時はもう知らんぷりした方がいい。下手に国防軍があるとアメリカ陣営の最前線に組み込まれてしまう。それよりも「日本には軍隊ありませんのでw」と言ってスルーできた方がいい。だから憲法9条はあった方がいい。たとえ建前でも。

カテゴリ: 思索, 社会/政治/文化/哲学 日付:

『クリトン』プラトン

ソクラテスの弁明―エウチュプロン,クリトン (角川文庫)
プラトン
角川書店
売り上げランキング: 30444

はじめに

『クリトン』は、角川文庫の『弁明』に収録されているのですが、実は一年前に読んでその時にメモを残したまま放置していました。

今さら読みなおすのも何なので、以下その時のメモをそのまま掲載します。あまりまとまってないように思いますが…。

▼続きを読む…

『プロタゴラス』プラトン

プロタゴラス―ソフィストたち (岩波文庫)
プラトン
岩波書店
売り上げランキング: 85050

はじめに

ソクラテスとソフィストとの対話を読みたい、と思い『プロタゴラス』か『ゴルギアス』どちらにするか迷ったのですが、論客の知名度から言ってプロタゴラスだろうということでこちらにしました。

が、結論から言うとこの著作、ドキュメンタリーとしては良作ですが哲学としては物足りないです。結局『ゴルギアス』も読み始めました。プラトン哲学をちゃんと読みたいのであればそちらの方が面白いと思います。

▼続きを読む…

プロタゴラス断片

はじめに

プラトン著『プロタゴラス』の前に、ソクラテス以前の哲学者 (講談社学術文庫)のプロタゴラスの章を読んでみます。

ソクラテス以前の哲学者 (講談社学術文庫)
廣川 洋一
講談社
売り上げランキング: 83964

プロタゴラスはソフィストの中心人物ということもありかなり有名な人物で著作も多数ある(あった)わけですが、残念ながら現存する著作物は一つもなく、ここに全文書ける程度の断片しか残っていないようです。

すぐ後の時代には体系家で収集家のアリストテレスがいるわけですが、彼の収集対象にはプロタゴラスは入っていなかったようです。もちろんアリストテレスがプロタゴラスを知らなかったわけはないですし、その頃にすでに著作が失なわれていたとも考えられません。プロタゴラスを始めとするソフィストらはソクラテスやプラトンとは対立関係にあったわけで、そのためアリストテレスやその系列の学者によって故意に葬り去られたか、そうでなくても彼らの保管対象から外されたことで消失してしまったのではないか、と思わずにはいられません。

そのプロタゴラスの断片を2つ。

▼続きを読む…