芸術の冬、そして年賀状

今日はチャリでツーリングの予定だったんですが中止になってしまったのでフェルメールと鳥獣人物戯画を見に六本木に行ってきました。チャリで。

帰りがけに青山で見かけた紅葉
PETNAX *istDS2 | SMC-M50mm/F1.7 | 1/60 | F4? | トリミングあり | クリックで拡大

どちらも混んでいるという前情報だったので、昼間の一番少なそうな時間帯(12時~13時頃)に、より混んでいそうなフェルメールを見ることにしました。新美術館は3回目くらいですがチャリで行ったのは初めてで駐輪場があるかどうか不安だったんですが、チケット売り場のすぐ裏に無料駐輪場があり、しかもガラ空きでした。これならチャリダーの人は気軽に行けますね。

12時すぎに着いたのですが目論見どおりチケット売り場には混雑はなく、サクッと購入して会場へ。でも中はさすがに混んでいました。入るなり動かない行列が待ち構えていました。しかしこの会場は別に並んでみるルールではないようなので、いつもどおりの「見たいものを先に見る作戦」で行くことにしました。そもそもこの展示会は全43点の展示があるものの実質的にはフェルメール「牛乳を注ぐ女」1作品のための企画です。まさか企画タイトルを真に受けて全作品がフェルメールだと勘違いしている人はいないと思いますが、この人の流れに乗ってまんべんなく見ていくなんて行為はバカとしか言いようがありません。

というわけで半分くらいスルーしたところで人だかりを発見。いよいよフェルメール「牛乳を注ぐ女」とご対面か、と思いきや、人だかりはなんと「牛乳を注ぐ女」の解説ビデオ。さすがに企画者もフェルメールがただ1点なのを心苦しく思ったのか、「牛乳を注ぐ女」の解説にまるまる1部屋つかっていかにこれが貴重な作品なのかを事前に説明しているというわけです。

そして次の部屋がいよいよ「牛乳を注ぐ女」。メインなだけあって1部屋占有しています。しかし作品自体は40cm程度の小品。今使っているパソコンの液晶ディスプレイ程度の大きさしかありません。ここだけ観覧方法が指定されていて、職員の人が「混雑していますので立ち止まらずにご覧ください!」とアナウンスしています。立ち止まって見るためのエリアが後方に用意されているのですが、多くの人がオペラグラスで鑑賞していました。近くで見るには絵の前を流れる行列に入らないといけないようなので、ここで初めて行列に入ります。ここにくるまで1時間前フリを見てきた人に申し訳ないと思う必要はありません。こういうときはこう念じましょう「僕が一番フェルメールを理解できるんだ!」と。だから途中から行列に割り込んでもいいのです。わかりやすく言うならば「ホワイトベースの中のアムロになれ」ということです。行列の中での基本は、遠い間は「早く流れろ」と祈りつつ近づいてきたら牛歩戦術、です。これを繰り返し、立ち止まりゾーンと合わせて30~40分ほど「牛乳を注ぐ女」ばかり鑑賞しましたが、やはり凄いです。圧倒的です。引き立て役の絵はまだ見てないのですが、見る必要ないんじゃないでしょうか。「牛乳を注ぐ女」だけが異彩を放っています。ジャガイモみたいな肌をした人物、硬くて21世紀の人が食べたら歯が折れそうなパン、350年注ぎつづけてもまだ注ぎ終わらない牛乳。この女性に声をかけるとしたら僕ならこういうでしょう。「お前、タイムリープしてね?

くり返しになりますが、この展示会は「牛乳を注ぐ女」だけのための企画展です。残りの42点は雑魚なんです。入場料1500円のうち1400円分くらいは「牛乳を注ぐ女」のために支払っているのです。そのくらい「牛乳を注ぐ女」は圧倒的なのです。わかりやすく言うならば「一年戦争のソロモン宙域」です。ザクだのジムだのが大量にいたところで、ビグ・ザム1機にかなわないわけです。しかし、ビグ・ザムがいるのならガンダムだっているのではないか? 実はこの雑魚の中に密かに刺客が放たれているのではないか? 絶望的な世界の中にもわずかな可能性が眠っているのではないか? 例えていうなら「フェルメール以外にも凄い作品が来ているのではないか?」そう思ってしまう人もいるでしょう。「そう思ってしまったら、探すしかないじゃないか!」というわけで「牛乳を注ぐ女」以外の作品にも注目してみました。

全く知らない画家の全く知らない作品なのですが、気に入った作品を挙げてみます。

・イサーク・イスラエルス「女の使用人」
・ヨーゼフ・イスラエルス「お針子」
・クリストッフェル・ビスホップ「日の当たる一隅」
・ニコラース・ファン・デル・ヴァーイ「アムステルダムの孤児院の少女」

前3点は水彩画です。特に「日の当たる一隅」は遠くから見て「あれ?なんかすごい色が出てる」と思って近寄ってみたら油彩画だと思って見ていたものが実は水彩画だったというので衝撃的でした。水彩画でこんな絵も描けるのかと驚きました。フェルメールを見たときには「やっぱ油絵描きたいな」と思っていたのですが、これを見て「いや水彩スゲー」と思い直しました。水彩の方が色が紙の変色とか光に弱かったりとか、修復しにくかったりとかそういう事情があるので、おそらく当時の色とは違っているんだと思いますが(とくに「女の使用人」)、それがまた時間を感じさせるイイ味になっています。

ところで、最初から順に見て「牛乳を注ぐ女」を見たあたりで疲れた人が多いからでしょうか、「牛乳を注ぐ女」以降はそんなに混雑がなく、ゆっくり見れるようでした。しかし僕が思うに「牛乳を注ぐ女」以前の展示よりも「牛乳を注ぐ女」以降の展示の方が良いのでこれから見る人はその辺を念頭に。

売店は「牛乳を注ぐ女」グッズばかりで、他の展示作品は絵葉書が少々ある程度で、今回来ていないフェルメール作品以下の扱いです。さすがに図録は売れてない様子でした。幸い先ほどチェックした作品のいくつかは絵葉書になっていたので購入しました。絵葉書になってなかったら図録買うかどうか迷っていたところです。

では、次は「鳥獣人物戯画」。

美術館のハシゴは久しぶりですが、上野に並んで六本木もあらたなハシゴ鑑賞エリアになっているんですね。

フェルメールを見てからサントリー美術館に移動したのが14時すぎ。思いっきり混雑タイムです。サントリー美術館は会場の中にチケット売り場があるのですが、会場に入るまでに20分くらい並びました。この人ごみに対しては「ほんとにお前ら鳥獣戯画に興味あるのかよ!」という思いもありましたが、西洋絵画偏重の昨今に日本の絵画(絵画って言えるかは微妙?)をこれだけの人が見にくるというのも悪くないな、と納得することにしました。会場に入るとチケットはすぐに買えました。「混雑回避のために前売り買ってきた」人もいたようですが、残念ながらそういう作戦は通用しないようです。

そしてこちらも展示スペースに入るなり最初から行列。頭上の見やすい場所に張ってあるのは複写拡大写真で、巻物自体は腰の位置くらいの台に置かれています。このため後ろから見るのは困難で、並ぶしかありません。ただしここでも「きちんと並んで見る」というルールは特に設けられてないため、巻物の開始位置まではショートカット。そこで進みながら列に入るという方法をとりました。そうです。「僕が一番鳥獣戯画を理解できるんだ!」と念じるのです。

「鳥獣人物戯画絵巻」の名のごとく、これらは動物と人間が戯れる絵巻物なのですが、最近ではよく「日本漫画の起源」などと言われたりします。高畑勲御大などは一歩進んで「アニメーションの起源だ」としていますね。これは回してみるからいいんだ、と。漫画はコマ割りがあるけどアニメは画面サイズが一定でその中を絵が動く。絵巻物は漫画よりはアニメに近い。アニメーションの演出家に言われると説得力があります。

最初がメインの「甲編」です。教科書とかにでてくるのはほぼこれです。これまで印刷物で見ていたときの印象と違いはっきりとした濃淡があって、しかも(偶然かもしれませんが)背景の草木が濃くキャラクターが薄く書かれており、今のセオリーとは逆になっているのが面白かったです。しかも乙編ではこれが逆転し、背景が薄くキャラクターが濃くなっていました。丙編はわりとまんべんなく濃淡をつかいわけており、丁編は全体的に薄墨のみで書かれていました。ところでフェルメールは「描く」で、鳥獣戯画は「書く」だと思っているんですが、これでいいんでしょうか?

甲編は3度並んで見ましたが、丁編はほとんど興味がなかったので後ろからサラッと流した程度ですませました。あとどこにくっつけていいかわからない断片とか模写とかいろいろ展示されていました。鳥獣戯画は誰がいつ書いたのかとか、どことどこがどうつながっているのかとか、失われているところに何が書かれていたのかとか謎がたくさんあり、その研究成果などがいろいろ展示されているんですが、それをじっくり見るには人が多すぎました。そういうのはあとで書籍でも読めばいいので、ここでは実物鑑賞に集中しました。

そして、「絵巻物は回して鑑賞しろ」という高畑御大の言葉を実践しようと甲編の縮小版巻物を購入しました。なんでこんなに高いのか謎(4000円!)ですが、出来は良いようなので我慢しましょう。ついでに図録も購入。これはあとで模写に使います。そうです。僕は鳥獣戯画を模写したいと思っているのです。

というわけで今日は出費がかさみました。巻物と図録と入場料2つで1万円近くかかってしまいました。普通はそんなに使わないのですが、それもこれもアレのせいです。そう。アレです。

アレって何かというと先日まで新宿で行われていた「ベルト・モリゾ展」です。アレに行き損ねてしまったのでムシャクシャしてたのです。ベルト・モリゾ、つい数年前までは日本ではほとんど無名で、画集などもなく、印象派が紹介される時におまけ程度でさりげなく出てくる程度の画家だったのですが、数年前のパリ・マルモッタン美術館展でモネと抱き合わせで紹介されて以来日本でも徐々ににわかモリゾファンが増えて来たようで、昨年には画集も発売され、そしてついに先日、日本初のピンでの企画展が行われていたのです。「やっとモリゾの時代が来たか!」とうれしく思っていたのですが、会場がすぐ近くなため「いつでも行けるや」と思って時間が過ぎていました。先週「そろそろ行こうか」と思って調べてみたら一昨日で終わってたという衝撃の事実が発覚し、眠れない日々を過ごしました。他の人のブログを見ていると「人が少なくてゆっくり鑑賞できた」「巡回しないので貴重」などという書き込みが多く、ますますブルーに。図録だけでもどこかで入手できればいいのですが・・・。

そんなこんなでベルト・モリゾの代わりに鳥獣戯画に注ぎ込んでしまったわけです。気持ちもお金も。

あ、で、書き終わろうと思ったところでタイトルを見て思い出しました。そう、年賀状です。一昨年から始めた年賀状。昨年は版画を作り「今年も版画で」と思っていたもののもう12月。どうしようかなぁと思っていたのです。今年は祖母が亡くなったのでそれを理由に中止しようか、とも思ったんですが、通例では二親等は5ヶ月で喪があけるそうなのでその理由もちょっと無理やりっぽい。で、いろいろ考えた結果、やはり今年もやります。版画。昨年は手間を軽減するためにゴム版を使いましたが、今回は木版を使ってやろうと思います。ゴムは彫る面絵の具がのりにくいという問題があることがわかったので手間はどっちもどっちかな、と。であれば表現力が高そうな木版の方がいいかなと。

そういうわけなので、僕の年賀状が届く人もいるかもしれません。昨年僕に送ってくれた人には送ります。そうじゃない人は気分次第です。欲しい人がもしいたら僕に年賀状を送ってくれたらお返しします。またはメールなどで「くれ」と言ってくださいw 住所交換もメールにて。

カテゴリ: アート/お絵描き 日付:
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