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『キリスト教は邪教です!』ニーチェ

という本を読みました。

ニーチェ『アンチクリスト』の現代語訳ということで、他の『アンチクリスト』邦訳本とはくらべものにならないくらいわかりやすく大雑把な訳です。これは哲学書としては失格だと思いますが新書としては最高の出来だと思います。たとえば節のタイトルも以下のような現代日本語のボキャブラリの範囲内で書かれています。

・「教会の自虐史観を笑う」
・「キリスト教は『ひきこもり』」
・「『世界の中心で愛を叫ぶ』おごり」
・「オカルト本『新約聖書』の暴言集」

こういう書き方は今でなければ通用しないわけで、近い未来にはかえってわかりにくくなる危険性があります。それでも今の時代のためにこのような訳をとった訳者のセンスに感謝したいと思います。

この本は表紙に911のWTCの写真が使われていることからもわかりますが、911以後の世界を理解するヒントとしてニーチェが有用であることを証明しています。引用します。

「要するに、彼らは正真正銘のバカなのですね。彼らはよく攻撃をしかけますが、攻撃をされたほうが、かえってよく見えてしまう。キリスト教徒に攻撃されることは、名誉であっても決して恥ではありません。(中略)結局、キリスト教徒が他人を攻撃したのは、特権を奪い取るためだったのです。それ以外の理由はありません。」

これは「ニーチェいいこと言うねぇ」と関心するために引用したのではありません。この文が重要なのは、ニーチェの時代と今の時代で本質的には何も変わっていないということが、つまり911以後に何かが変わったわけではないということが示されているからなのです。「911以降に世界がおかしくなった」と考える人は多いと思います。ビン・ラディンによって911が起こされ、なぜかアメリカはフセインを攻撃した。鉾先が変なんだけどそれはふりあげた拳を降ろせなくなったからで、そのくらい911がアメリカにとって悲惨な出来事だったんだ・・みたいな。でも実はそうじゃなくて911があろうがなかろうが先天的にキリスト教徒は他教徒を攻撃するクセを持っていてそれが発源しただけのことなんだ、というのがニーチェを通しての理解というわけです。

この本には過激な記述が多く、キリスト教批判だけでなくユダヤ人バッシングも激しい。権力肯定もニーチェを知らない人には刺激が強すぎるかもしれません。もし他の誰かがこの本と同じことを書いたらマスコミや業界から袋叩きにあうでしょう。もしかすると暗殺されるかもしれません。そのくらい過激です。しかしこの過激さは意図的です。ですからこれを読んでそのまま額面通りに受け取るのも危険です。というか額面通りに受け取ってそのまま実行することができる本なんて世の中にはありません。あるとすればそれは聖書であって、それを批判しているのがニーチェなのです。なので、この本に「正解」が書いてあると期待ないでください。でも、ものすごくいい「ヒント」が得られると思います。